光合成光化学系1反応中心の電子受容体として働く2つの鉄硫黄中心AとBはpsaC遺伝子にコードされた9kDaのタンパクに存在する。これらの鉄硫黄中心の機能を解析するため、緑藻クラミドモナスの葉緑体遺伝子psaCを部位特異的形質転換し、このシステインを他のアミノ酸へ置換して一方の鉄硫黄中心を特異的に失活させることを目的に本研究を行なった。 まずpsaC遺伝子を含む5.8kbの葉緑体DNAのEcoRI/PstI断片をプラスミドにクローン化し、この遺伝子の上流のSa1I部位にスペクチノマイシン耐性を与えるマーカーを挿入した。そして、このプラスミドでクラミドモナスを形質転換し、マーカーの挿入が光合成活性に影響を与えないことを確かめた。次に鉄硫黄中心を結合すると考えられている11、14、51番目のシステインをセリンまたはアスパラギン酸へ置換した遺伝子を試験管内で合成しこのプラスミドへ組み込み形質転換に用いた。 形質転換株は抗生物質のスペクチノマイシン耐性を指標に単離し、サザン分析により変異がPsaC遺伝子に導入されていることを確認した。このようにして作出された形質転換株はすべて光合性的に生育できず、光化学系1が失活した蛍光の誘導期現象を示した。ところが酸素電極を用いた測定から系1による酸素吸収活性は野生株より若干減少しているが形質転換株にはまだ保持されていることが分かった。従って鉄硫黄中心を結合するシステインを置換すると系1の全活性は失われるが光化学活性は保持されていると言える。おそらく鉄硫黄中心が変異を受けたため、系1反応中心からフェレドキシンへの電子伝達活性が特異的に阻害されているのだと考えられる。現在、これらの形質転換株の鉄硫黄中心のシグナルを電子スピン共鳴で検出し、2つの鉄硫黄中心のうちどちらが失活しているかを同定することを試みている。
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