植物の光形態形成反応は植物における環境情報応答として重要なものであるが、色素による光吸収後の信号伝達過程はほとんどわかっていない。多様な光形態形成反応を示すシダ原糸体細胞では、光受容色素であるフィトクロム、青色光吸収色素がともに、細胞内で少なくとも二つの存在状態で示すこと、細胞膜近辺に配向した受容体に制御される光反応においては、光受容部位と近接する細胞表層部の細胞骨格、特にアクチン繊維構造が変化すること、微小管構造はアクチンに追随して変化するか、あるいは変化しないことがわかっている。そこで本研究では蛍光ラベルのファロイディンによる生細胞のアクチン染色を行ない、アクチン繊維構造の光誘導変化を詳細に調べることを目的とした。 アクチン繊維の特異的プローブであるローダミンファロイディンをエレクトロポレーション、マイクロインジェクションにより細胞に導入することを試みたが、成功にいたらなかった。しかし、この溶液中に細胞を沈め、減圧処理することで、ローダミンファロイディンが導入され、アクチンが生体染色されることがわかった。ただ、この方法では細胞へのダメージが大きく、アクチンの動態を追跡するにはいたっていない。今後、この方法を改良し、光反応に伴うアクチン構造の変化を調べる所存である。また、この試みの中で、次のような事実が発見された。原糸体亜先端部は光屈性反応の光受容部であり、表層には微小管とアクチン繊維からなるリング構造が存在する。この構造は光屈性に先立ち変化し、信号伝達に役割を負うと考えられている。高濃度のNaCl溶液で処理すると原糸体は急速に原形質分離するが、リング構造の部位では細胞壁と原形質膜が強固に接着していて分離しないこと、さらに、この接着はアクチンではなく、微小管のリング構造に依存することが明らかになった。この事実は、原形質膜を通して微小管と細胞壁を結ぶ何らかの構造が亜先端部に存在ことを示している。
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