植物貯蔵タンパク質はいずれも、登熟中の種子細胞の粗面小胞体でプレプロ型前駆体として合成され、シグナルペプチドの切断によってプロ型前駆体となり、液胞に輸送された後に成熟型タンパク質に変換される。液胞に輸送されてくる前駆体タンパク質のプロセシングに関与する酵素(液胞プロセシング酵素)の基質特異性を調べたところ、本酵素は基質タンパク質分子の表面に露出しているアスパラギン残基を認識して、そのC末端側を切断することが明かとなった。 液胞内プロセシングの機構をさらに詳しく調べるために、精製酵素を抗原としてウサギで抗体を作製した。この抗体を用いたイムノブロティングおよび合成ペプチドを用いたプロセシング活性の測定から液胞プロセシング酵素の植物界での分布を調べた結果、登熟後期の種子にこの酵素が最も多く存在するが、種子以外の緑葉などにはほとんど検出できなかった。 免疫電子顕微鏡観察より本酵素が液胞のみならず、液胞タンパク質の前駆体を輸送しているベシクルにも存在していることが解った。しかし単離したベシクル内では前駆体のプロセシングは起こらないことから、ここに存在するプロセシング酵素は不活性型であることが示唆された。この液胞プロセシング酵素の実体を解明するため、本酵素のcDNAを単離し、その翻訳領域の構造解析を行った。その結果、液胞プロセシング酵素はcysteine proteinaseではあるが、既知のcysteine proteinasesとは類似性を示さず、唯一住血吸虫Schistosoma mannsoniで報告されている推定上のproteinasesと33%の同一性を示した。また、この翻訳産物は55KDaで、N末端のシグナルペプチド、37kDa活性酵素領域、そしてC末端のプロ領域からなっていた。前駆体はプロセシング活性を持たず、活性発現のためにはC末端プロ領域の除去が必要であることが判明した。即ち、液胞プロセシング酵素は、ベシクル内では不活性なプロ型で存在し、液胞内でC末端プロ領域が切断され、活性型に変換することが明らかとなった。
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