淡水域に広く分布している緑藻類の一形態種Closterium ehrenbergii(ミカヅキモ)は、集団間の生殖的隔離機構によって交配群A-Pと呼ばれる複数の生物学的種に分化している。この様な研究結果に基づいて、本研究では、比較的短期かつ定牧的に有性生殖が起こり休眠耐久性の接合胞子の子孫より集団が再構成される交配群Aと、長期間無性生殖のみで集団が維持されている交配群Pを研究材料として以下の2点ついて比較研究を行う。 1.セルフィングや戻し交配等の近親交配によって子孫の生存率がどの程度低下するか? 2.無性生殖期間の長さと有性生殖時にのみ発現する有害遺伝子の数量が比例するかどうか? (1)交配群Aの代表株M-16-4a(プラス)とM-16-4b(マイナス)株間の接合胞子の発茅個体(F1)の生存率は93%、この交配によって得られたプラス8クローンのF1の各々を親株M-16-4bに戻し交配すると平均58%、交配群Aの他のマイナス株に交配すると平均92%、またマイナス8クローンを親株M-16-4aに戻し交配すると平均68%、他のプラス株に交配すると平均86%の発茅個体が生存した。プラスとマイナス各々8クローンのF1間64組の交配結果は、未だ全てが完了していないが、これまでに得られた結果から判断すると、約70%程度のF2個体の生存が予想される。セルフイングでは、親株の遺伝的背景やセルフの回数(世代)によってかなり変異が大きいが、いづれにしても0-30%と非常に低い生存率しか認められない。このように定期的に外交配が行われている交配群Aでは、近交の度合に応じた明確な近交弱性がみとめられた。 (2)交配群Pの分布に関しては、秋田、岩手、山形、福島、新潟各県の冷涼水系において新たに7箇所の産地を確認した。分離培養したクローンの交配型を調ベた結果、新潟県の3箇所が全てマイナスであるのに対して福島県以北の全ての産地では全てプラスであることが確認された。
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