研究概要 |
脊椎動物嗅覚トランスダクションがCAMPー経路ばかりでなく第二の経路であるIP_3をセカンドメッセンジャーとして産生する酵素反応経路(IP_3ー経路)も加えた複数経路によりなされるとする仮説の上に立って,本年度は両棲類動物カエルを材料とし、その嗅細胞膜に分布するIP_3ー感受性イオンチャンネル(以後IP_3チャンネル)について、1)IP_3応答の潜時 2)嗅細胞膜各部での分布 3)順応現象などをCAMPー感受性イオンチャンネル(以後CAMPーチャンネル)の活動と比較しながらパッチクランプ法により調べ、IP_3ーチャンネルのカエル嗅覚トランスダクションにおける役割を検討した。その結果以下の諸点が明らかになった。1)IP_3ーチャンネルのIP_3に対する応答潜時はCAMPーチャンネルのそれと同様に十分短く(IP_3ーチャンネル24msec、CAMPーチャンネル5msec)CAMPーチャンネルと同様にIP_3が直接細胞内側から作用し、開口させている。2)IP_3ーチャンネルは嗅受容部位である嗅受容器先端膜での分布密度が他の膜部位における分布密度よりも高い。3)IP_3ーチャンネルの中にはCAMPーチャンネルには見られない順応現象を示すものが発見された。以上の結果から、IP_3ーチャンネルはCAMPーチャンネルに較べ、より複雑な機構ではあるがCAMPチャンネルと同様に脊椎動物の嗅覚トランスダクションチャンネルとして動作しうると結論した。しかし、IP_3ーチャンネルの実際の分布密度は嗅細胞体膜でCAMPーチャンネルの分布密度5〜25μm^<-2>よりも低い事も本年の研究が示しており、同様なことは嗅細胞先端膜におけるIP_3ーチャンネルの分布密度についても言えるので、IP_3ーチャンネルとCAMPーチャンネルの嗅細胞先端膜における分布密度の比較ではIP_3ーチャンネルは、カエルでの嗅覚トランスダクションに、CAMPーチャンネルに較べ補助的役割を果すと考えられる。又その役割の重要度は、脊椎動物種間で異っているものと推定された。
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