レチノイン酸(RA)は鳥類の肢芽においては後部化(ZPA化)を引き起こすが、有尾両生類四肢の再生芽においては後部化以外に、基部化、腹側化を引き起こす事が知られている。これらの作用を統一的に解釈するため、まずニワトリ胚肢芽をRAで10時間処理したのち、若い胚の肢芽に移植すると移植された組織は、本来よりも基部側の軟骨構造を作る事、つまり基部化が起こる事を明らかにした。この基部化は、後部化とは独立に起こった。さらにキメラ解析を用いた実験から、このRAの作用が同時に組織片の増殖促進を伴い、その結果、先端部しか作り得ない組織が基部から先端部にわたる広い範囲の領域を作り得る事、つまり移植された組織の細胞は一旦、基部の位置価を持ち、増殖とともに順次先端の位置価を持つ事を明らかにした。 一方、基部-先端部軸方向の位置価に対応するホメオボックス遺伝子HoxAの発現がこの基部化に伴って変化する事を明らかにした。 またこの基部-先端部軸方向の位置価に対応して細胞間の親和性が異なり、異なった位値価を持つ細胞は互いに選別されることを最近我々は明らかにした。基部-先端部軸方向の親和性の差異はサンショウウオ四肢の再生芽でも知られており、RAによって変化する。そこで肢芽についてもRAによる親和性の変化を調べ、基部化に相当する変化を確認した。これらの結果は、RAの作用機構の多くの部分が肢芽、再生芽で共通である事を示す。
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