本研究は、軟体動物平滑筋から単離した、太さ約100nm、長さ約20μmに及ぶ巨大な太いフィラメントと、他の動物組織から調製したF-アクチンケーブルとを用いて新たなin vitro再構成系を作成し、単一の太いフィラメントの運動を解析することによって、筋収縮のエネルギー変換機構についての知見を得ることを目的とする。本年度の研究から得た結果と次年度の計画を以下に列記する: 1)太いフィラメントの単離法:材料としてムラサキイガイ前足糸牽引筋(ABRM)を用いた。本年度は、これまで報告してきた方法に若干の修正を加え、より高い運動活性を示すフィラメントを得る方法を確立した。 2)アクチンケーブルの調製:車軸藻節間細胞に、焦点を絞突ったUVを照射し、葉緑体を破壊した後さらに数日間培養することで、光学的条件が良く、しかも極性の揃ったF-アクチンケーブルを調製できることが分かった。 3)太いフィラメントの直接観察:本年度は予算の関係から、このアクチンケーブル上に置いた太いフィラメントの運動を位相差顕微鏡(本年度購入)で観察することを試みたが、良好な結果は得られなかった。従って、太いフィラメントを直接観察する系については、微分干渉系や画像処理装置の導入を含め、次年度以降の検討課題とした。 4)太いフィラメントの間接観察:現有の観察系での解析を可能とするため、太いフィラメントにポリスチレンビーズ(直径1〜2μm)を付着させ、間接観察を行うこととした。本研究の目的から、1ないし数個のビーズが1本の太いフィラメントに付着したものを得るための条件(ビーズとフィラメントの混合比等)を設定した。次年度は主にこの系を用い、力ー速度関係の測定などを中心に研究を行う予定である。
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