時間分解蛍光免疫測定法(TR-FIA)による、ボンビキシンの新しい微量定量法を確立し、組織内や血液中のボンビキシンの測定を行った。血中濃度の測定にあたっては、測定感度の向上と測定に干渉する血液成分の除去が必要であったが、いずれの問題も解決することができた。TR-FIAは放射性物質を使わないため安全性・簡便性に優れ、更に、今回開発した方法はラジオイムノアッセイ(RIA)よりも高感度でかつ短時間で測定できることから、この測定法は、今後のボンビキシン研究にとって大きな利用価値を持つと考えられる。 5齢脱皮から成虫の羽化までのカイコの血中ボンビキシン濃度の変動を調べたところ、幼虫期に低く、蛹の前・中期に高いという結果が得られた。また、雄では、羽化後に非常に高くなることが明かとなった。この変動のパターンは、以前にRIAによる測定によって得られたものとほぼ同じであり、このことは、今回開発した測定法の信頼性の高さを示すものである。成虫発生の時期および羽化後に血中濃度が上昇するとの結果は、ボンビキシンがこれらの時期に重要な生理的役割を果たしていることを示唆する。一方、脳内のボンビキシン量を同時に調べたところ、やはり大きな変動がみられた。5齢脱皮直後に多量に存在するが以後急速に減少すること、蛹後期に大量に蓄積し、雄では羽化後急激に減少することなどが特徴である。 化学合成ボンビキシンの注射により、カイコ幼虫の血糖低下が起こった。ボンビキシンによる血糖低下作用は、カイコの主要血糖であるトレハロースに対してのみ現れ、グルコースに対しては認められなかった。血糖低下の原因を探るため、トレハロース分解酵素(トレハラーゼ)活性に及ぼすボンビキシン注射の効果を調べたところ、最大20%の活性上昇が認められた。ボンビキシンの作用の一つは、トレハラーゼ活性の調節であると考えられる。
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