我々がホタルイカで発見した三種の視物質による頭足類の波長識別機構に関連する本研究は大きく前進した。1)ホタルイカの皮膚発光器の制御は驚くべきことにドーパミン、セロトニンによってなされていることを明らかにした。富山医科薬大の小橋、高屋研究室の協力を得て、4-5月の間富山に滞在してフランスCNRSのバソーと共同して行った。中枢からの神経系を介してのものか、循環系を介するものか、それぞれが別々のレセプターを介しているのかなどは来年度の研究計画である。またこれらトランスミッターの作用機構を発光を目安に進めることができるだろう。2)皮膚発光器のうち青い光を発するものと緑の光を発するものの制御機構の違いが温度感受性の差によることが明らかになった。ただ発光強度が緑のものは大変弱いことは新しい不思議な問題である。3)頭足類は大変長い視細胞を持っている、スルメイカ、ヤリイカ、シロイカ、ケンザキイカ、ホタルイカで視細胞外節部の横方向の吸光度を顕微分光法で測定すると100ミクロン当り0、7であった。光の入射方向では200ミクロンで約3、0になるのでカエルの桿体のものに匹敵する。視物質の分子吸光係数が30%低いこと、脊椎動物の視細胞のディスク膜に比べてマイクロビリイが粗であることがカエル視細胞と同じ感度を維持するためにも、より長い外節を必要としている理由であると推定できる。4)英国の海洋研究所のヘーリングらによって大西洋で採集されたイカ、タコ類の中に遂にホタルイカと同じような3種の視物質を持つもの、新しい視物質を含む2種の視物質を持つものが発見された。このことは深海の動物の光り環境への分子的適応の一般性を示すものである。5)新しい視物質が脊椎動物に発見された場合の検証のスタンダードとして、および他の既知の視物質との比較のためにウシの蛋白とで合成したものに付いて吸収曲線と光感受性を明らかにした。4位に水酸基を持つレチナールがな短波長に極大があるかをモデル系で明らかにした。
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