両生類の変態現象の中で肝細胞での変化は甲状腺ホルモンによる幼生型遺伝子発現の成体型への再編成過程と捉えることが出来る。なぜなら、肝実質細胞は変態期に代謝系の大きな変化を示すが、その細胞系譜は幼生細胞から連続しているからである。本研究では肝細胞における遺伝子発現様式がどのように、そして如何にして変化するかを明らかにするため、変態期に制御される遺伝子群のcDNAを単離同定することを目的とした。 変態最盛期、そして変態前期肝臓よりそれぞれcDNAライブラリーを作製し、さらに前者から後者を差し引いたサブトラクトされたcDNAライブラリーを構築した。差ハイブリダイゼーション法により、変態期にその量が増加するmRNAに対応するcDNAクローンを多数単離することに成功した。ノーザンハイブリダイゼーション法によりこれらの遺伝子の発現様式を調べたところ、変態期の様々な時期にその発現が増加してくることが明らかになった。さらに、甲状腺ホルモンによる発現誘導を試みたところ、これらの遺伝子群は早期誘導型と遅延誘導型の2種類に分類できることが明らかになった。また、変態最盛期に一過的に発現するM3遺伝子を発見した。M3遺伝子は肝臓の肝実質細胞でのみ発現しており、その塩基配列から予想されるアミノ酸配列と相同性の高い既知タンパク質はなく、新種のものであった。さらに、この遺伝子は成体肝細胞では甲状腺ホルモンにより誘導されないことが明らかになった。M3 cDNA断片を用いてライブラリーを再スクリーニングし、完全長のcDNAを得ることに成功した。 今後、塩基配列決定によりさらに多くのcDNAの同定を行うとともに、M3遺伝子構造を調べ変態における発現調節機構を明らかにする予定である。
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