昆虫(カイコガ、カメムシ)や甲殻類(イソガニ、ザリガニ)の節足動物の複眼、および軟体動物(ケンサキイカ)の眼の網膜の光受容膜の脂肪酸組成をガスクロマトグラフィー法により分析した。昆虫の複眼では飽和脂肪酸としては16:0、18:0(最初の数字は炭素数、後の数字は二重結合の数を表す)が主であり、不飽和脂肪酸では18:1が主であった。カイコでは18:2と20:5が数%含まれていた。甲殻類では飽和脂肪酸は16:0、18:0が主であったが、イソガニでは14:0が数%含まれていた。不飽和脂肪酸は20:4、20:5、22:6などが主であった。イカでは内節、外節共に22:6が過半数を占めた。季節による脂肪酸組成の変動をイソガニ複眼について調べた。その結果、不飽和度(不飽和脂肪酸の量/飽和脂肪酸の量の比)は夏に1.02で、冬は2.1と高くなった。季節により大きく変動する脂肪酸には16:0、18:0、18:1、20:5等であった。これらは季節による温度変化に対応してラブドーム膜の流動性の保持に主体的に関与する脂肪酸と思われる。 次に、カイコの蛹を用いて複眼の発生にともなう脂肪酸組成の変動を調べた。その結果、ラブドームの発生に比例して顕著に増加する脂肪酸として20:5(エイコサペンタエン酸)を見付けた。すなわち蛹の期間は10日間であるが、最初の5日間はラブドームは見られないが、6-10日にかけて急速にラブドームは発達してくるが、これに比例するかたちでこの脂肪酸が増加してくることが分った。このことは20:5脂肪酸がラブドームにふくまれている視物質の光情報変換機構と深い関係にあることを示唆していると思われる。以上のことから脂肪酸は単に膜の形態の保持のみならず機能とも関係していることが示唆された。
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