ナミアゲハ複眼の視物質のクロモフォアはビタミンA3由来の11-cis3-hydroxyretinal(11-cis レチナール3という)である。複眼をin vivoおよびin vitroの状態で、異なった明暗条件下においた後、複眼を角膜側と網膜側にわけ、更にそれを膜分画と水溶性分画とに分けて各々に含まれるretinoid系物質を高速液体クロマトグラフィー法により定性定量し、その代謝経路を解明した。その結果、光(白色)照射により網膜側組織の膜分画では視物質のクロモフォアである11-cisレチナール3がall-transレチナール3に変換されるため、all-transレチナール3の量は著しく増大するが、11-cisレチナール3の量は変わらなかった。11-cisレチナール3の量が変わらなかった事実から、この物質が網膜以外の他の組織から供給されていることを示唆している。他方、角膜側組織では網膜側とは逆向きの反応、即ち11-cisレチナール3が合成され増加してくることが確かめられた。網膜側で11-cisレチナール3の量が変わらなかった事から、角膜側で合成された11-cisレチナール3が何らかの方法で角膜側から網膜へ運ばれたものと推測できる。 角膜側でのレチノイドの代謝を調べるため、複眼を明順応して、角膜側の水溶性分画におけるall-transレチナール3の経時変化を調べてみると時間経過とともにall-tranレチナール3の量が減少していき、逆に11-cisレチナール3の量が増加して行った。またall-transレチナール3の量はほぼ一定に保たれた。この結果から角膜側の水溶性分画ではall-tranレチナール3-(酸化)-all-transレチナール3-(異性化)-11-cisレチナール3の反応経路が行われているものと推測できる。上に述べた反応系のスペクトル光による効果を調べたところ、青色光(460nm)の光は白色光と同じ効果を示したが、オレンジ光では殆ど効果を示さなかった。
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