研究概要 |
マボヤは、われわれ脊椎動物の原形にもっとも近い原索動物に属する動物のうちでも、大型のものの代表である。多種の細胞を含むその体腔液は、原始的な免疫系のモデル系としてきわめて興味深いうえに、簡単に大量の細胞を採取することができるという利点を持つ。 本研究では、すでに、マボヤから採取した体腔細胞を培養下で観察し、その形態や行動パターンから7種の細胞を識別している。本年度は、この同じ培養系内にマイクロニードルを導入し、さまざまな液体や溶液に対する各種細胞の走化反応を解析した。走化反応を誘発するすべての試料につき、反応を示す細胞はmorula cell,hyaline amoebocyte,giant cellの3種のみであった。 最も強いプラスの反応を誘発した試料は、(1)体腔細胞の細胞破壊液、(2)ヒトデ体腔細胞と反応させた後の培養上清(本来の走化性因子を含むと考えられる)であった。ところが予想に反して細胞たちは、人工海水中の培養条件下に噴出された(3)自己および非自己体液、(4)ヒトデ体液、(5)牛血清アルブミンにも中程度の走化反応をしめした。このことは、マボヤ体腔細胞の示す走化性が、脊椎動物のそれと違って非特異的である可能性を強く示唆する。 そこでこの点をより明確にするため、ヒト白血球における特異的走化因子を与えたところ、(2)フェニル-メチオニル-ロイシル-フェニルアラニン(fLMP)、(2)ロイコトリエンB4(LB4)、(3)補体成分(C5a)、(4)塩酸ヒスタミンのいずれも反応がえられなかった。 以上を総合すると、マボヤの細胞性免疫機構が高等脊椎動物のマクロファージのレベルに留まるものであることが結論される。今後は、この系を用いて、ヒトの免疫系の中でも研究の遅れているマクロファージ系の非特異反応に照準を当てて、本研究を特徴あるものに育てて行きたい。
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