脊椎動物網膜外網状層内のシナプス機構の解明には、その構成要素である視細胞、双極細胞及び水平細胞の生理学的・生物物理学的性質を完全に理解する必要がある。今年度は、魚類網膜水平細胞に存在するL-グルタミン酸(Glu)受容体及び電位依在性カルシウムチャネルの性質をガラス管微小電極法を用いて調べ、以下の結果を得た。 1. アメリカナマズ網膜から単離した水平細胞は、Glu投与に対し脱分極応答を発生する。この応答は、Gluアナログである 2-amino-4-phosphonobutyric acid (APB)投与によって抑制された。この抑制効果は、25mM-酢酸ナトリウムの潅流投与により細胞内を酸性化させると増大し、20mM-塩化アンモニウムにより細胞内をアルカリ化させると減少した。APBを単独で投与しても、水平細胞の膜電位に有意な変化は観察されなかった。 以上から、APBは水平細胞のGlu受容体でアンタゴニストとして作用すること、またその作用は細胞内の水素イオンによって調節されていることが示唆された。 2. 単離水平細胞は、脱分極刺激に応じて時間経過の長いカルシウム活動電位を発生する。細胞内酸性化により活動電位の特続時間は著しく短縮し、振幅は減少した。一方、アルカリ化で逆の現象がみられた。活動電位の細胞内pH依存性は、カリウム及びナトリウムチャネル阻害剤並びに細胞内環状ヌクレオチド濃度の上昇を誘発する IBMX の存在下でも観察された。また細胞内カルシウム濃度を BAPTA を用いて低下させた場合でも、活動電位の振幅及び特続時間は細胞内pHの影響を受けた。 以上から、カルシウムチャネルの活動は細胞内の水素イオンによって直接調節されていることが示唆された。
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