脊椎動物網膜外網状層内のシナプス機構の解明には、その構成要素である視細胞、双極細胞及び水平細胞の生理学的・生物物理学的性質を完全に理解する必要がある。本年度は、魚類網膜水平細胞に存在するカルシウムチャネルの性質をパッチクランプ法を用いて調べた。 その結果、 1.アメリカナマズ網膜から単離・培養した水平細胞には、高閾値型カルシウムチャネルが存在している。このチャネル電流は、細胞内の酸性化で抑制され、アルカリ化で増強された。カルシウム電流の細胞内酸性化による抑制のEC_<50>はpH7.1であり、ヒル係数は約2であった。 2.グルタミン酸は、水平細胞内を用量依存的に酸性化した。100muMのグルタミン酸は細胞内pHを約0.3酸性化した。この酸性化は可逆的であった。 3.グルタミン酸は細胞内を酸性化することによって、高閾値型カルシウムチャネルを抑制した。1〜10muMのグルタミン酸は、細胞内pHを約0.1酸性化し、その結果としてカルシウムチャネル電流のピーク値が約20%抑制された。 等が明らかとなった。 以上から、グルタミン酸には、光情報を視細胞から二次ニューロンに伝達する神経伝達物質としての役割以外に、細胞内のプロトン濃度(酸性化)を上昇させ、カルシウムチャネルを抑制する神経修飾物質としての作用もあることが明らかとなった。プロトンは現在まで殆ど注目されていない物質であるが、細胞内セカンドメッセンジャーとしてリガンドレセプターやイオンチャネルの制御に関与していることを強く示唆している。
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