研究概要 |
我々は先に,ティラピアを用い,色素胞の細胞膜のphosphatidyl-inositol(PIP_2)のphospholipase C (PLC)による代謝生成物のうち,inositol 1,4,5-trisphosphate(IP_3)が細胞内の情報伝達因子として重要な機能を担う可能性を示したが,数種の魚類を使い,この推論が一般的に適用されることを示し得た.IP_3が実際に細胞内のCa^<2+>貯蔵部位に作用,イオンの放出を促すことは細胞膜透過性を高めたモデル黒色素胞にIP_3を作用させた際にCa^<2+>の放出が見られることから確認できた.Ca^<2+>の貯蔵部位を特定する研究は透過型電子顕微鏡の導入が遅れたため次年度に持ち越された.PIP_2のPLCによるもうひとつの加水分解産物,diacylglycerol(DG)の色素胞運動に直接関与する可能性は低いことが判ったが,逆に,これが主として形態学的体色変化に係わるものであることが,メダカを使用した実験により明かとなった.cAMPの増減は色素胞の運動性反応のうち,遅い成分に係わるものであり,速い成分はIP_3-Ca^<2+>系の関与によるものと考えられるが,速い変化の追従可能なわれわれの装置により[Ca^<2+>]_1の連続測定を行なって,推論の正しいことを確かめた.イットウダイの赤色素胞などでは[Ca^<2+>]_1の上昇は細胞外からの供給による可能性があり,色素胞膜のイオンチャンネルの活動のパッチ・クランプ法による解明を今回の助成により購入した装置を利用して開始した.その他の成果として,ペンシルフィッシュの体側皮膚の独特な模様の特定部位に存在する黒色素胞で,メラノソームの拡散に係わるメラトニン受容体を初めて見出し,βメラトニンと命名したこと,ネオンテトラの腹部赤斑は夜間透明化するが,この際に見られる赤色素胞内のエリスロソーム凝集の概日リズムにメラトニンが係わるという発見,ムスカリン型アセチルコリン受容体の亜型の同定,アセチルコリン受容体がナマズ目以外にも存在することの発見などが含まれる.
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