南西諸島産のヒドロ虫綱(刺胞動物門)の系統分類学的研究を、1992年から1994年にかけて実施した。7島(奄美大島、沖縄島、阿嘉島、宮古島、石垣島、黒島、西表島)における計36地点で採集・調査し、また実験室での飼育によって、ヒドロクラゲ39属47種(7目)とヒドロポリプ21属27種(2目)の計61属74種(7目)を確認した。沖縄島を中心にこの海域より既に報告されている沿岸性ヒドロポリプの25属30種(2目)とあわせると、67属82種(7目)が分布することになり、南西諸島には豊富なヒドロ虫類相がみられるといえる。本海域からのヒドロクラゲ相は、本報告が初めてである。このうちの13種のヒドロクラゲは、日本初記録あるいは未同定種であり、これらの大半の種については、実験室での飼育により成長過程を調べるとともに刺胞構成、配偶子および幼生の形態を明らかにした。また、今回得られた個々の種について、個体変異の幅をおさえ、かつ生物地理学的情報をまとめた。南西諸島産のヒドロ虫類の多くは、九州から北海道にかけてのいずれかの海域に分布するものが多く、南西諸島にのみ分布する種は、目下、ヒドロクラゲ11種とヒドロポリプ4種である。南西諸島産のヒドロクラゲは、比較的よく分類学的研究がなされている台湾海峡や中国のアモイ周辺海域のものと共通する種が多いことも判明した。
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