我々は哺乳類の生殖器官におけるプロテアーゼの役割を明らかにする試みの過程で、ブタ卵巣において卵胞の成熟に併って卵胞液に蓄積される新しいタイプのセリンプロテアーゼを見いだした。本プロテアーゼによる活性は未熟な卵胞由来の卵胞液では低く、卵胞の成長・成熟過程で次第に高まる。排卵直前の卵胞液内の酵素活性は、未成熟な卵胞のそれと比較すると4〜5倍にも達することから、この卵胞液プロテアーゼが卵胞の成長、排卵、受精に至るまでの過程で重要な役割を担うタンパク質であることが強く示唆された。そこで、卵胞液プロテアーゼの精製法を確立し、得られた標品を用いて酵素学的特性や性状の予備的調査を行った結果については昨年度に報告した。平成5年度では、さらに基質特異性の詳細な検討から、血漿カリクレインや第11因子の特異性とは異なることを明らかにした。また、全体の約15%に相当するアミノ酸配列を決定し、構造的にも上記の2つのタンパク質とは異なる分子であることを示した。この他、特異的抗体の作製にも成功したので、免疫組織化学的手法による本プロテアーゼの組織分布の調査が可能となった。ブタ卵巣においては、成熟卵胞の卵胞腔のみならず間質に存在する細胞が強い陽性を示した。
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