研究概要 |
エゾサンショウウオの雄の生殖器官の周年変化を調べた。帯広地方では5月上旬,繁殖池に入る直前に排精が始まり,生殖活動を終って上陸した個体では精原細胞の増殖が始っていた。精子は8月に現われ,9月半ばではすべての精巣小葉で精子形成は終了していた。新潟産のクロサンショウウオの場合と比べて精子形成の期間が短いことは冬眼に入るまでの活動期間が短いことと関係があると思われる。精巣は6月に最小,8月に最大で,その重量比は1:25であった。 繁殖池に入ったクロサンショウウオの陸生型の体型の雄は間もなく上陸し,さらにまた水に入り,この行動を何回か繰りかえし,やがてまったく水性型となる。この彷徨行動と呼ばれる行動はこれまで有尾類ではほとんど知られていなかったもので,陸生から水生への適応過程で必要な行動と考えられる。この間に血中プロラクチン量が次第に増加してくるのであって,繁殖池に向う衝動は従来いわれてきた「プロラクチンによる」ことを支持できない実験結果が得られた。陸生型の雄にプロラクチンを投与すると,脱皮し,粘液腺の分泌がおこり,尾長と尾高が増加する。これらは水に入らなくてもおこるが,水に入ればさらに著しくなる。繁殖池に入ることによってプロラクチンの分泌が増加すると考えられる。 標高・緯度などの異なる地域に生息するサンショウウオでは雌の産卵数と卵の大きさに違いがあり,それには一定の傾向がみられる。この地域差が幼生期の卵巣の発達過程ですでにみられることをハコネサンショウウオで示した。本種の性分化は発生段階67-68で起るが,その時点では生殖細胞数に性差はない。その直後に2次卵原細胞の増殖が起り,その一部が肥大を始めるが,この肥大卵母細胞の数と発達の程度に地域差が認められた。
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