ニホンザルの季節繁殖リズムの発現に甲状腺ホルモンがどのように関与しているかを知るため、以下の実験を行った。すなわち、10頭の成熟雌ニホンザルを繁殖期(秋から冬)の開始前に個別ケージに移した。繁殖期に入って排卵月経周期が発現したことを血中ホルモン動態から確認後、サルを2群に分けた。1群のサル(6頭)は甲状腺摘除手術を行い、もう1群のサル(4頭)は偽手術をして対照群とした。サルはそのまま翠年の繁殖期の開始時期まで飼育した。実験期間中経時的に採血を行い、各種生殖関連ホルモンの血中濃度を測定した。 結果:対照群のサルは、偽手術後も排卵月経周期が継続し、通常の繁殖期の終了時期に一致して停止した。一方、甲状腺摘除群では、いまだ繁殖期が続いているにもかかわらず、甲状腺摘除後排卵月経周期が非常に速やかに停止した。さらに、血中ホルモンの解析から、甲状腺摘除後血中チロキシン濃度が急減しゼロになるとともに、血中プロラクチンが急増し、高プロラクチン症状を示すようになったことがわかった。 以上の結果は、甲状腺摘除により視床下部からの甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)の分泌が亢進し、TRHはプロラクチンの放出ホルモンでもあるため、プロラクチン分泌も亢進したことを示している。そして、高プロラクチンにより、ゴナドトロピン分泌が抑制されて、卵巣機能が低下したと考えられる。以上のように、ニホンザルでは甲状腺ホルモンはプロラクチン分泌を抑制することにより、季節繁殖リズムの発現に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
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