I.ウナギANPのcDNAをクローン化した。cDNAから予測されるアミノ酸配列には、単離したペプチドの配列分析の際には読めなかったグリシン残基がC末端に存在した。HPLCを用いた詳細な分析の結果、グリシンは配列分析でC末端に存在したリジンのアミド化に用いられていることがわかった。ウナギANPとVNPのcDNAをプローブとして、ニジマス、ウシガエル、ウズラ、ラットでゲノムDNAのサザン分析を行ったところ、ウズラにはっきりとした対合反応が出た。従って、鳥類にもVNPが存在するであろう。鳥類では既にBNPが同定されているため、VNPはBNPと異なる新しいホルモンである可能性が高い。 II.東京工業大学の広瀬茂久教授との共同研究で、ウナギのB型及びC型受容体をクローン化し、それらの構造を明らかにした。また、オートラジオグラフィーと結合分析により、鰓の上皮細胞と軟骨細胞に、多量のC型受容体が存在することを明らかにした。 III.ウナギを淡水から海水に移したところ、すぐに血漿ANP濃度が上昇し、数時間持続した。しかし、海水に2週間適応させたウナギでは、淡水ウナギより血漿ANP濃度が有意に低下していた。また、鰓には大量のC型受容体があるため、鰓は血漿ANP濃度を調節するバッファーの役割をしている可能性が示唆された。 IV.ANPはウナギの飲水を抑制し、腸からの水とナトリウムの吸収を抑制した。また、淡水ウナギの尿量を減少させ、海水ウナギのコルチゾル分泌を促進した。これらの作用のうち、飲水と腸からの吸収の抑制は淡水適応を促進するが、抗利尿やコルチゾル分泌の促進は海水適応に有利である。このように、ANPは海水適応、淡水適応の何れを促進するホルモンかについて、まだ明確な解答を得ていない。
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