研究概要 |
フィッション・トラック(以下FTと略)年代測定において,原子炉中性子のドシメトリーの観点からFT年代測定値の標準化と信頼性の確立をはかることを目的として原子炉中性子のフルエンスとスペクトルを測定し,それらの照射場ごとの相違が,ドシメトリー用標準ガラスのトラック密度計測値との関係において,年代標準試料(他の方法で年代が詳しく調べられている岩石中のジルコン・アパタイトなど)のFT年代測定値にどのような影響を与えるかを検討した。日本原子力研究所のJRR-2・JRR-4・JRR-3Mおよび立教大学原子力研究所のTRIGA Mark IIのそれぞれの照射設備について,Au・Cu・Co・Lu・In・Al・Niなどをモニターとして,繰り返して比較検討してきているが,これらのデータを他の研究炉,京大炉KUR・武蔵工大炉MITR(TRIGA Mark II)についての従来の文献値とを併せて熱中性子束・熱外中性子束・高速中性子束の比として検討し,現在一般利用可能な国内照射場のおおよその概観を試みた。従来FT年代測定においてよく用いられてきたNBS-SRM 612-613・962・962Aなどの標準ガラスにおいては,立教炉のRSRで5%,F24Cで11%,東海炉JRR-4の気送管では,3%が,ウランに起因するトラックのうち高速中性子によるものと考えられ,天然の試料と比較する場合,ウラン同位体比に加えてトリウム含有量との関係において検討されなければならないことがわかった。しかしながら放射化モニターによる熱中性子束値を用いて,フィッション・トラック年代測定におけるU-235の核分裂反応率を常時明らかにすることは,運転中の特性の変化なども含めて極めて困難であるので,今後さらにU-235の核分裂反応率そのもののみによるFT年代測定値の標準化を検討する必要がある。
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