山陽帯の広島花崗岩は、本邦の白亜紀〜古第三紀の花崗岩類の中でも主要な岩体の1つでありながら、それらの大部分が角閃石を含まないので、黒田吉益教授を中心とする私たちの水素同位体的研究が行われていなかった。最近、広島市周辺に角閃石を含む岩相がかなり広く分布することがわかったので、岩国市ー佐伯町ー三段狭地域から広島市のまわりの広島花崗岩体本体から岩石試料を採取して、角閃石と黒雲母を分離し、水素同位体比とX_<Fe>(Fe/Fe+Mg)を測定した。この地域の花崗岩は風化がはげしく、かなりの部分でマサ化しており、分析に供し得る岩石試料の採取は容易ではなく、試料の数は充分ではなかったが、新しい知見が得られた。 これまでに同じ手法で研究されてきた日本の他の地域の花崗岩と比較するとかなり違った特徴のあることがわかった。即ち、それらの8D値は黒雲母で-107〜-90〓、角閃石で-110〜-85〓で、X_<Fe>は黒雲母で0.61〜0.75、角閃石で0.58〜0.76で、δD-X_<Fe>図で角閃石と黒雲母のタイラインはS-Eライン(Suzuoki-Epsteinの実験式の傾斜)に平行なものはなく、むしろ垂直に近いものが多い。そして角閃石の含水量は 1.48〜1.80で低い。これらの特徴は、中部地方領家帯の伊奈川花崗岩のそれに似ている。 山陽帯の中でも、広島花崗岩とほゞ同時代で、独立したやゝ苦鉄貭の有漢岩体の水素同位体的特徴はδDが黒雲母で-114〜-99〓、角閃石で、123〜103〓と低いがX_<Fe>は黒雲母で0.50〜0.56、角閃石で0.47〜0.49と広島花崗岩プロパーよりも低い。角閃石ー黒雲母のタイラインはS-Eラインに平行なものとそうでないものもあって、角閃石の含水量は、1.76〜1.95とやゝ高い
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