本研究の過程で得られた鉱物組織・鉱物共生関係・鉱物化学組成に関するデータを野外調査結果と共に整理・検討し、それを基に変成作用の時階区分と各時階における温度(T)・圧力(P)の推定、ならびにP-T-t経路についての考察を行った。このための試料として、この山地に広く分布する含Al_2SiO_5鉱物泥質片麻岩と含両輝石塩基性片麻岩、および一部に産する含珪灰石石灰質片麻岩を用いた。その結果、以下の点が明らかになった。 変成作用は大きく2期のものに分けられる。すなわち、I)この山地のほぼ全域にわたるグラニュライト相広域変成作用(750-800℃・7-8.5kb)とII)後の花崗岩マグマ貫入に伴う局地的な接触変成作用(約550℃・3kb)である。さらに、広域変成作用は、泥質岩中に見い出された藍晶石やサフィリン-藍晶石の残晶と、ざくろ石を部分的に置換した藍晶石-白雲母-黒雲母集合体の発達によってそれぞれ示唆されるように、より高圧側からグラニュライト相主要変成時階に至る昇温・減圧のprograde P-T経路と、グラニュライト相時階から引き続いたほぼ等圧のretrograde P-T経路(530-580℃・5.5kb)を含んでいる。全体としての経路は‘時計廻り型'を示す。しかし、山地東南端部では石灰質岩中に珪灰石-灰長石共生が見い出されたので、グラニュライト相変成圧力が局地的に幾分低かった(≦6Kb)可能性がある。他方、接触変成作用は、この地質体の地殻浅所への上昇後、等圧prograde経路を辿った。筆者らの結果を含む最近の年代学的データに基づいて、I期のグラニュライト相変成作用は原生代晩期(約10億年前)に、またII期の接触変成作用は古生代早期(約5億年前)に起こったと解釈できる。
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