今年度は沖縄本島北部地区と宮古島における現地調査、および、南西諸島全域を対象とする資源利用の地域変異に関するアンケート調査を実施した。現地調査では、救荒食物として重要な意義を持つ食物資源の採取方法や利用方法にとくに焦点を当てた。また、食物を含めて古来より人々に利用されてきた有用植物の成分分析にも着手した。アンケート調査では、これまで少なくともある地域ではその利用が知られている野生食物資源のうち重要なものについて、飢饉時における利用など、その利用状況を調べた。これらの調査結果は現在解析中であるが、以下にこれまでのところ得られた知見を示す。 1:救荒として知られる蘇鉄の加工処理方法には水さらしと発酵の2方法があるが、そのうち力仕事を必要とする前者よりも後者の方がより普及していた可能性が高い。この発酵法による食品に対して示した多くの古老の感慨は、蘇鉄が往時の南西諸島の食物文化の一端を担う重要な食物であったことを示唆する。2:蘇鉄の救荒食としての、また日常食としての重要性は南西諸島全域において確認された。3:多種多様な野生食物資源の利用が各地で確認された。また、それらのほとんどは、飢饉時に限って利用されるというものではなく、日常食として利用されていた。4:このような野生食物資源の多くは陸生資源にしろ水産資源にしろ採捕技術が比較的単純で、その採捕の中心的担い手は婦人、こども、老人であった。5:多様な野生動植物資源の利用は、狭小な土地、干ばつ、台風などにより恒常的な食物不足の状況にあったと思われる南西諸島においては生存上不可欠な生計戦略であった。とくに採捕の容易な資源は救荒食として高い意義をもっていたと考えられる。
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