研究概要 |
本研究は、人間の珊瑚礁環境への進出過程、あるいはそこにおける適応戦略の解明を目的として、南西諸島における野外調査に基づいて、飢饉食、救荒食、保存食に利用された動植物資源の種類、それらの生態学的特性、それらの収穫、摂取に要する技術特性、さらには生化学的分析による栄養、薬理成分を明らかにし、その生存価を検討した。結果は以下の通りである. 1:島嶼環境による多少の違いはあったが,救荒食として多数の野性食物資源が南西諸島各地で利用されていることが明らかになった。同定が進んだ植物では、29科41属が確認された。これらの植物資源のほとんどは、日常食としても利用された。 2:蘇鉄は、昭和30年以前には救荒食として、また日常食として南西諸島全域で重要であったことが確認された。また、その発達した加工・調理法は蘇鉄が往時の南西諸島の植物文化の一端を担う植物であったことを示唆する。 3:救荒食および日常食として利用された野性植物資源の多くは陸棲資源にしろ、水産資源にしろ採捕技術が比較的単純で、その採捕の中心的担い手は婦人、こども、老人であった。 4:多様な野生動植物資源の利用は、狭小な土地,干ばつ,台風などにより恒常的な植物不足の状況にあったと考えられる南西諸島においては生存上不可欠な生計戦略であった.とくに採補の容易な資源は救荒食としても日常食としても高い意義をもっていたと考えられる。 5:南西諸島における野性食物の採捕が不可欠な生計活動であったことは,各地に残されている季節と採捕活動に関する民俗気候学的伝承も示唆する.
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