本研究は、申請者らが新しく合成に成功したIII-V族希薄磁性半導体に見られる強磁性秩序と電気伝導・光物性との関係を明らかにし、この新希薄磁性半導体の応用の可能性を探ることを目的として行われた。 本年度は、III-V族化合物半導体をベースにした希薄磁性半導体、InMnAsを対象に、その電気伝導・光物性と磁気的性質との関係を明らかにすることを試みた。特に、高正孔濃度のp形試料にのみ低温で(〜10K)見られる強磁性秩序の発現機構とその影響を明らかにすることを目標とした。 高正孔濃度のp形試料(MnAs組成〜0.013)は、中高温領域で常磁性であり、ある臨界温度以下で自発磁化が生じる。磁気輸送現象を調べると、半導体が磁化を持つことで現われる異常ホール効果が通常のホール効果より大きく、これに注目することで磁化を決定することができることが明らかになった。それによると膜厚1μm前後の試料では10K以下で自発磁化が観測される。自発磁化はn形試料には見られないことから正孔とMnのスピンとの相互作用が強磁性的相互作用の発現に重要な役割を果たしていることがわかった。また、強磁性秩序の発現とともに負の磁気抵抗効果が観測されはじめる。これは磁気秩序がキャリアの局在を促進していることを示している。これらのことは、以前から提案している傾いたスピンを内包する大きな磁気ポーラロンの存在により説明できる。さらに、p形ヘテロ接合試料でも強磁性秩序が観測された。薄膜・ヘテロ接合試料共にMnの内殼遷移を検出することを試みている。
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