本研究の目的は、ヘテロエピタキシャル成長させたIII-V化合物半導体薄膜の局所的な物性を、カソードルミネッセンス(CL)法を用いて評価することにある。具体的には、薄膜の組成比(△x)と残留歪量(△l)の不均一性がバンド構造にもたらす効果をCLスペクトルを用いて調べる。今年度の課題であった(1)低温での評価に関しては、冷却系の改造により試料温度を11Kまで下げられるようになった。これにより、CLスペクトルの構造がより詳細にフィットできるようになった。また、(2)スペクトルの励起強度依存性が問題となり、この不確かさを避けるため、電子ビームの励起電流量をモニターするプローバーを整備した。研究結果は、まずGaAs/Si系で、歪量の定量を行ないCLピークのシフト量と局所歪の関係を求めた。ラマン測定との対比よりCLピークのシフト量は、高感度の歪検出の手段となっていることが確認された。これを使って、ミスフィット転位における歪量を見積った。解析はまだ静水圧の近似であるが、(3)偏光子の取付けにより偏光の情報もとれるようになってきた。1次元ないしは2次元の歪の解析は次年度の課題とする。また、InGaAs/InP系薄膜の評価を始め、組成のずれとスペクトルの関係を調べた。評価した薄膜では局所的な組成の変動はみあたらず、CLスペクトルの変化は主に欠陥の分布を反映しているだけであった。そこで、低温液相成長法で4元系のInGaAsP-InPを作成し、相分離が生じていると見なせる試料について、△xと△lを分離して評価することを試みたが、観察場所も変えてもスペクトルのピーク位置の変化ははっきりと観察できなかった。この原因は、薄膜それ自体に固有の性質とも考えられるため、試料作成条件を変えて、研究を継続している。さらに、この試料で準安定状態を持つと考えられる発光性の欠陥を発見し、欠陥の安定性を調べた。
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