非線形誘電率の異常と分極反転、結晶化などの秩序変化過程の間に強い相関があることが前年度の研究により、はっきりした。それをさらに明確に理解するため、分極反転現象、相転移、緩和現象等と、Van der Waals相互作用、水素結合等との関係を実験的、理論的に追求し現象を物理的に明らかにすることに成功した。 (1)VDF-TrFE共重合体の誘電スペクトルの観測により、2重Cole-Coleプロットが描けることが見いだされた。高周波側の緩和はVDFモノマーが持つダイポールの揺らぎが素過程になっていると思われる。低周波側の緩和はより大きな単位を素過程とする強誘電性高分子に固有な緩和現象である可能性がある。 (2)水素結合を含む強誘電体ナイロン11の強誘電性には、水素結合が非常に大きな役割を果たすことが、赤外吸収スペクトルのNH伸縮振動を観測し、それと分極挙動との相関を知ることにより判明した。 (3)強誘電性高分子の分極反転時の巨視的ひずみを観測することにより、非線形に生じる巨視的ひずみが微視的ひずみに比例し、それが電わい現象で生じるひずみと分極反転時に非線形に生じるひずみからなり、熱力学的に強誘電性を表現した自由エネルギーにより、説明可能であることがわかった。 (4)VDF-TrFE共重合体の相転移を表現する簡単なモデルをつくりそれにより、この共重合体の相図を再現することに成功した。またこの際用いた、VDF分率と分子間相互作用の関係を原子間のVan der Waals相互作用を計算する分子モデルによって再現することに成功した。
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