分子超伝導体としてこれまで知られているのは、BEDT-TTFカチオンラジカル塩やC_<60>アニオンラジカル塩をはじめとして、いずれも母体物質のイオンラジカル塩である。したがって、薄膜作製には電気化学的手法が原理的に可能となる。本年度は、(1)BEDT-TTFカチオンラジカル塩薄膜の作製を試みるとともに、(2)C_<60>アニオンラジカル塩薄膜の作製に着手した。 (1)では、T_c=10.8Kのκ-(BEDT-TTF)_2Cu(NCS)_2の薄膜作製を行い、SEM、X線回折、ESR、導電率などで評価した。その結果、生成した膜はκ型の多結晶体であることがわかった。しかし、室温における導電率は、単結晶で得られている値より5桁も小さい。結晶の配列が無秩序であることや、結晶粒界が高い抵抗をもつためと考えられる。 常圧の有機超伝導体としてはT_Cの最も高い(11.6K)κ-(BEDT-TTF)_2Cu[N(CN)_2]Br薄膜の電着を試みた。SEMによると、無数の微結晶からなるとみられる板状塊が、基板に対して垂直に立ち並んだ形態をもってい (2)では、C_<60>の電気化学的挙動の検討を行った。また、酸素を嫌うC_<60>アニオンラジカル塩を取扱うため、特殊仕様のグローブボックスを導入した。
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