研究概要 |
本研究は,κ-(BEDT-TTF)_2Cu(NCS)_2塩に代表される分子超伝導体の薄膜を電気化学的な方法により得ることを目的とする.また,そのための基礎的な知見として,いくつかのイオンラジカル塩の電析機構を明らかにする. (BEDT-TTF)_2Cu(NCS)_2塩の電析を試みた.κ型結晶を含む膜は容易に得られるが,κ型結晶がよく配向した緻密な膜を得ることはきわめて困難であった.膜の形態は電流密度および電極の空間的な配置に強く依存する. また,(BEDT-TTF)_2Cu(NCS)_2塩の電析における結晶核生成・成長の過程を明らかにするため,in situの顕微鏡像を観察し,VTRで録画した.光学的な観察のため,電着には通常の不均一な懸濁液のかわりに,均一な溶液(BEDT-TTF/CuSCN/KSCN/18-crown-6/1,1,2-トリクロロエタン)を用いた.銀参照電極に対し3.0Vを10秒間印加したのちに,2.0Vを印加した場合のin situ顕微鏡画像をみると,顕微鏡の分解能以下の小さな核が無数に生成し(1×1μm^2に1〜2個以上),数分以内にそれらのうちのいくつかが成長をはじめ,周囲の比較的小さな核を取り込みながら成長を続けることがわかる.これは“Ostwald ripening"として知られる現象の例である. イオンラジカル塩の電析と物性に関する知見を集積して,“分子結晶の電析の科学"を確立することは重要である.(BEDT-TTF)_2Cu(NCS)_2以外の塩として,次の2つの系を調べた.(1)芳香族ジアミンのイオンラジカル塩の物性,(2)ヒドロキノンとp-ベンゾキノンの電荷移動塩キンヒドロンの結晶電析.
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