本研究では、有機光導電材料として知られているフタロシアニン顔料の励起子の解離過程を蛍光時間分解測定により明確にすることを目的とした。研究は蛍光時間分解の測定技術の確立とフタロシアニンの蛍光時間分解測定による蛍光スペクトルと蛍光寿命の測定からなる。 1.蛍光時間分解測定装置および試料 蛍光測定装置の中心となるフォトンカウンティング用シグナルプロセッサ、光源の色素レーザユニットおよび試料冷却器具を本補助金により設備し、基本的な装置は設備した。励起光強度、試料膜厚などの蛍光測定条件について実験を行い、最適測定条件を決定した後、測定を開始した。試料にもちいる顔料は昇華精製を行いさらに結晶転移させたものを樹脂中に分散させて薄膜にした。 2.蛍光スペクトルの測定 有機光源電材料としてα、x型無金属フタロシアニン顔料、α、β、ε型銅フタロシアニン顔料およびα型チタニルフタロシアニン顔料を絶縁性樹脂中に分散した薄膜を試料とした。励起光源にはヘリウムネオンレーザを用いて蛍光スペクトルを測定した。いずれも、800nm以上の領域に蛍光スペクトルのピークを示し、その発光強度には差があった。特に、発光強度の大きいのはx型無金属フタロシアニン顔料であった。しかし、この結果から、蛍光と光電導との明確な相関を得ることはできず、一種類の材料内で議論するのが望ましいことがわかる。 3.蛍光寿命 発光強度の大きいx型無金属フタロシアニン顔料の時間分解蛍光スペクトルを求めた。光源には色素レーザにより610nmの波長の光を照射し、その時の蛍光をフォトンカウンティグ装置により測定した。40μsec以上において810nmをピークにもつ蛍光スペクトルの形状はほぼ同じであり、その寿命は約80μsecである。この結果は、単一分子からなる蛍光に比較してかなり長い時間であり、分子凝集体における励起子の拡散が大きいことを示唆していると考えた。
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