研究概要 |
本年度においては、電荷移動錯体薄膜の形成初期過程の微視的構造については走査型トンネル顕微鏡(STM)および原子間力顕微鏡(AFM)による研究を行った。 まず、一次元伝導体であるTTF-TCNQ錯体をKcl及びKBr基板上に蒸着し、その表面を室温においてSTM,AFMで観察した。STMでは単位胞当り4種類の構造(3つはTCNQ分子、1つはTTF分子)が観察されたのに対して、AFMでは3種類の構造が観察された。結晶構造を考慮すると、この内2つがTCNQ、残る1つがTTF分子であると対応づけられた。このように、STMとAFMでは得られる情報が異っていることが分子レベルで明らかにされた。 次に薄膜初期過程の観察であるが、基板上に錯体を少量蒸着をした。この蒸着量では伝導度が低いため、STM観察は不可能であり、AFMを用いた。いずれの基板でも長方形の島構造が観察され、長辺方向が結晶軸(b軸)方向に一致し、基板の[110]方向にエピタキシャル成長していた。これは、薄膜形成初期におけるTCNQ分子のNイオンと基板のKイオンとのクーロン相互作用が関与しているものと理解された。この他に、準安定状態と思われる方向を持つ島が観察されたが、この大きさは非常に小さいものであった。 また、基板依存性であるが、KBr基板の方がKclに比べて細長い島が観察された。これは、基板と上述のTCNQ分子とのシスフィットの大きさに深く関連していることがわかった。 この他に、ガラス及びアルカリハライド基板上にBEDT-TTF錯体を蒸着させた試料表面のAFM観察を行い、後者は前者に比べてよりエピタキシャな薄膜構造を持っていることがわかった。 次年度は、走者トンネル分光法により、電子構造を調べる予定である。
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