研究概要 |
走査トンネル顕微鏡/分光法(STM/STS)を用いて導電性有機薄膜TTF-TCNQ膜の金属-絶縁体パイエルス相転移前後での表面電子構造を調べた.また,以下に述べるように有機薄膜を観察する上での測定の問題点などを明らかにした. 1.測定上の問題点---蒸気圧の問題から,3×10^<-10>torrの超高真空に試料を導入すると約一桁真空度が悪くなり,さらに,長時間放置すると薄膜試料が蒸発してなくなってしまった.これらの結果を踏まえて,薄膜の厚さは厚いもの,室温測定後はただちに冷却し蒸発をできるだけ抑えることが必要であった.また,極低温に冷却すると熱応力の影響からか薄膜が下地のマイカ基板からはがれ試料との電気的な導通がとれなくなる現象も観察され,これに対処するためマイカ上に金を蒸着しその上に薄膜を形成した.この試料においてエピタキシャルに薄膜が成長していることは以下の測定結果から確かめられた. 2.測定結果---室温STM測定において,大気中で測定されたのと同様にTCNQ分子の3つの輝点とTTF分子の1つの輝点が二次元的に規則正しく配列しているのがトンネル電圧200mVで明瞭,安定に観察された.さらに,測定ポイントのほとんどで金属的なI-V特性が得られた.液体窒素温度ではTTF-TCNQの絶縁体相転移温度53Kに近いためか測定が不安定となり,金属的な相と非金属的な相が共存していることがSTSのスペクトルより確かめられた.このことは試料表面のある部分ではすでに相転移が生じていることを示すものである。さらにヘリウム温度10Kまで温度を冷却するとバンドギャップがひろくなり非金属的な相が支配的となった.低温のいづれの場合も室温とは異なるSTM像が観察されたが、相転移との関連など詳細については現在検討中である.
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