研究概要 |
セシウムおよび酸素の吸着によって負の電子親和力が生じる機構と,基板であるGaAs表面電子状態の関係を明らかにすることを目的としている本研究では,分子線エピタキシ法によって特定の表面化学量論性を持つGaAs試料を再現性良く作製することが要求される.このために欠かすことの出来ないAs分子線強度の定量法として,表面化学量論比に対応した表面超構造の変化およびAs取り込みによる電子線回折強度の振動周期測定を行い,これら二つの測定による結果が一致することを確かめてAs分子線強度の定量技術を確立した. セシウム,酸素を吸着させた表面の電子状態を調べるために,成長したGaAs試料をMBE装置からSTM装置まで超高真空中で搬送することの可能な装置を製作した.STM機構部はスプリングおよびバイトンと金属板スタックによる除振機構の上に設けた.探針のアプローチ機構にはインチワームを用い,この先端に走査用の円筒型アクチュエータと探針を設けた.トンネル電流の制御電子回路,インチワーム制御回路と制御用ソフトウエアを製作し,大気中でHOPG表面の原子像が得られることを確認した.続いて,超高真空中でMBE成長したGaAs表面のSTM観察を試みた.このときに原子的尺度での表面の観察を妨げているのは,MBE装置のターボ分子ポンプ等が原因となってSTM制御電子回路に雑音が生じているためであることを突きとめ,雑音低減により原子像が得られつつある. また,GaAs表面の電子状態を変化させる処理方法の一つとして硫化処理の検討も行った.硫化処理したGaAs表面の昇温脱離法による解析により,硫化処理温度によって硫化物の表面状態は大きく変化すること,また,バルクGaAsの蒸発によって表面が破壊される温度まで表面には硫化物が残留することを明らかにした.
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