本研究は、新しい冷陰極型電子放射素子に関する基礎研究であるが、先ず、素子の試作を行うために、平成4年度は、素子製作のための設備の整備に当てた。試作素子は、ガラス基板上に蒸着で作られた上下電極層、絶縁層、電子加速層などの結晶薄膜により構成されるので、各層の製膜のために、次の二つの蒸着装置を製作した。また、試作素子の電子放射特性や電子エネルギー分布の測定のための装置も準備した。 1.加速層蒸着装置 硫化物薄膜結晶の電子加速層の製膜には電子ビーム(EB)蒸着法が適しており、このため手持ちの真空排気装置にEB蒸着装置を付設した。電子銃には市販の2kWのものを用い、ビームターゲットの部分を特殊構造に改めることにより、4種類の薄膜を連続作製できるようにした。また、ビームスポットの移動により蒸着効率を高めるために、加速電圧が可変なEB電源を設計製作した。 2.絶縁層蒸着装置 絶縁層には、自作の高周波スパッタ装置により酸化タンタル膜を製膜する計画であったが、製膜効率が良くないので、当面はEB蒸着の酸化イットリゥム膜を用いる事にして、酸化物用のEB蒸着装置を用意した。しかしこの材料は絶縁性能が酸化タンタルに劣るので、スパッタ装置の改良も続けている。 3.電子エネルギー分布測定装置 試作素子の放射効率や放射電子エネルギー分布を測定するための装置(高真空装置、パソコン利用データ収録装置)も大部分が完成した。 平成5年度以降も予定通り、素子の製作と放射特性の測定に進めると思われる。
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