研究概要 |
照度の低下に伴い,我々は物の見え方が変化するのを経験する.人間の視覚系は明るい所に順応した状態(明所視)と暗い所に順応した状態(暗所視)では明るさに対する分光感度が異なり,色の見え方も大きく変化する.薄明視における物の見え方が定量化されれば,それに基づいて低照度レベルにおける物の見え方をシミュレーションすること,つまり人工的に薄明視の環境をリアルに再現することが可能になる.このようなシミュレーションは安全性を目的とした薄明視における視環境の評価,さらに快適な視環境の設計に役立つことが期待される. 本研究の目的は薄明視における色の見えを定量化し,それに基づいて低照度レベルにおける物の見え方をシミュレーションすることである.本報告は3部からなり,第1部は「薄明視における色のみえの測定」,第2部は「薄明視における色のみえの予測」,第3部は「薄明視のシミュレーション」である. 第1部では,0.01luxから1000luxまでの照度における36枚の色票の色の見えを両眼隔壁等色法により評価した.実験結果は照度低下に伴い,色みが減少すること,緑青,黄赤領域で色相が変化すること,明るさコントラストが低下することを示した.視覚のメカニズムの観点から,これらの現象を照度レベルの低下に伴う桿体の介入により定量的に説明している. 第2部では,第1部の実験結果を基に,明所視における測色値から任意の照度レベルにおける色の見えを予測するアルゴリズムについて述べている. 第3部では,実際の風景をスチールビデオカメラで撮影し,そのRGBデータからCIEのXYZ測色値を推定し,明所視-薄明視変換式を用いて,明所視の画像を任意の照度レベルでの色の見えを呈する画像に再現することに成功した.
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