研究概要 |
昨年度までにビームエネルギー制御部を改良したイオンビーム発生装置(1.5kV,30mA)を用いて、イオンビームによる宇宙材料劣化に関わる各種の実験を行った。本装置で発生させた高速酸素イオンビームを、代表的な宇宙飛翔体表面材料であるポリイミド、アルミ蒸着ポリイミドのフイルム材、銅、鉄などに照射し、スパッタリングに基づく材料の劣化速度の計測、二次的に発生するイオン・原子の質量分析、二次イオンのエネルギー分布計測、材料表面で発生するアーク放電現象の検出、材料周辺に励起される静電波動の測定を行った。ビームのエネルギーは、本年度は電源能力最大の1500eVまで変化させて実験を行なった。劣化速度は半透明試料を利用して、半導体レーザーダイオードの光の透過率の時間変化の計測から算出した。ビームエネルギーが高いほど劣化速度が早くなり、スパッタリング粒子の最大発生率は120%に達することを見い出した。二次的に発生するイオンについてはイオン質量分析器で計測し、その発生率が中性粒子に比較して1%以下であることを確認した。また、二次イオンのエネルギーをファラディカップを利用して計測した結果、30eV程度であり、そのエネルギーはビームエネルギーに比例して大きくなるがターゲット材の材質には依存しないことが判明した。アーク放電については、各種の形状、各種の厚みのポリイミドを用いて実験を行い、放電波形と放電頻度を測定した。この結果、イオンビーム中の絶縁物については、そのビームエネルギーに対応する電圧まで帯電し、材料の公称の耐電圧よりも低い電圧で放電が発生する場合があることが見いだされた。周辺の電磁環境については、イオンプラズマビームの電子プラズマ周波数の波が卓越していることが分った。これらの結果は、本年1月の宇宙エネルギーシンポジウムで報告(2編)するとともに、卒業研究論文4遍としてまとめられた。
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