本研究では、超音波による境界面からのエコー特性を利用し、人工股関節ステムが挿入された骨内部の状態を把握し、THR後の「ゆるみ」の早期診断に役立つ測定法を確立することを試みた。具体的には、水浸法による超音波パルス反射法を用いて、人工股関節ステムを挿入した豚の大腿骨試料、及び人工股関節ステムを挿入した肉の付いた豚の大腿骨試料について、骨と骨髄の厚さを測定するとともに、ステムと骨との間の移動距離の精度を調べた。さらに、THRが施された患者について、ステムと骨との間のゆるみの状態を調べ、超音波法の有用性を検討した。 (1) 人工股関節ステムを挿入した豚の大腿骨を水中に沈め、水面より超音波を入射させ、骨とステムからのエコー特性を調べた結果、骨の厚さは正確に測定できた。 (2) 人工股関節ステムを挿入した肉の付いた豚の大腿骨試料の肉面上より超音波を入射させ、骨とステムからのエコー特性を調べた結果、肉、骨、骨髄の厚さは正確に測定できた。 (3) (1)と(2)の実験において、大腿骨試料を固定してステムのみを骨髄腔内で移動させた結果、ステムの移動距離は0.1mmの精度で測定できた。 (4) 人体の大腿骨の皮膚上から超音波を入射させて得られた骨の厚さは、単純X線写真の結果と比較した所、かなり精度良く測定できた。超音波法が人体の大腿骨に対しても測定可能であった。 (5) 人工股関節ステムを取り付けている患者の皮膚上より超音波を入射させた結果、ステムと骨との間のゆるみが0.2mmの精度で測定できた。
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