鉄基形状記憶合金(Fe-Cr-Ni-Mn-Si)のくり返し熱・力学的負荷のもとでの挙動を記述することを試み、実験によってその妥当性を確認した。 くり返し負荷のもとでの応力-ひずみ、ひずみ-温度ヒステリシス挙動は、くり返し正逆変態過程中に発生する微視的物理量に密接に関連している。この状況を連続体力学的に考慮するために、合金内に発生する微視的応力と微視的ひずみ、およびそれらに起因して非可逆的に発生・累積するマルテンサイト相分率を内部変数として導入した。合金の熱・力学的挙動を記述する構成関係として、マルテンサイト相分率を内部変数として含む速度型熱・力学的構成式、変態カイネティックス、応力とひずみに関する巨視-微視適合式、内部変数に関する発展式を定式化した。等温度下での力学的くり返し負荷による応力-ひずみヒステリシス、等応力下でのくり返し温度負荷によるひずみ-温度ヒステリシスおよび熱・力学的くり返し負荷の下での応力-ひずみ-温度ヒステリシスに関する解析を行い、ヒステリシスループの移動、収束などについて、後述する実験結果を定性的によく説明する結果を得た。 引張荷重と温度負荷を任意の波形でくり返し負荷することができる実験装置を開発し、当該合金の熱・力学的挙動に関する実験を行った。まず、応力-温度面における正逆変態線を決定し、さらにそのくり返し負荷依存性と予負荷の影響を明らかにした。定式化された理論の妥当性を確認するために、等温力学的くりかえし負荷、定応力温度くり返し負荷および熱・力学的くり返し負荷の実験を行った。またTiNi合金、銅基合金の挙動との差異をマイクロメカニックスの観点から考察した。さらに正逆変態の途中で負荷方向が変化する時に生じる、いわゆるサブループに関する実験も行い、当該合金の挙動は従来の連続体熱・力学理論では記述できないことも明らかにした。
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