研究概要 |
ディーゼルエンジンに特有な燃焼室内の急激な圧力上昇は,燃焼室内壁を叩くとともに,ピストンスラップや軸受部における二次的な打撃を発生する.これらの衝撃応答は構造要素を伝達し,重畳されて外壁面から騒音を放射する.エンジン騒音全体への寄与が高いと考えられる燃焼音とピストンスラップ音とはほぼ同時に発生しており,しかも両者には燃焼室内圧力が強く関係しているため,それらの分離には困難が伴う. 本年度においては,これらの衝撃源とエンジン騒音との間に,3入力1出力系の数学モデルに残差手法を含む多次元相関解析法を適用した.静止エンジンの単一爆発加振実験にこの解析法を導入することにより,各帯域周波数成分における各入出力間のコヒーレンスの割合が,前年度において求めた燃焼衝撃の伝達に関するエネルギ寄与率とほぼ等しい値を示すことを明らかにできた.さらにこの手法を小型ガソリンエンジンの加速騒音に適用し,運転時における各衝撃源によって発生する騒音をそれぞれ分離するとともに,加速騒音の主要因がピストンスラップであることを明らかにした. またエンジン構造における衝撃応答の伝搬状況を明らかにする手法として,3チャンネル振動インテンシティ法を用いて単一爆発加振実験および発火運転実験において調査した.その結果,燃焼衝撃が駆動系を経てクランクケースやシリンダブロックに伝達されていることを示せた. さらに,駆動系の各軸受部に介在する潤滑油膜が,燃焼騒音にどの程度影響を及ぼしているかを明らかにした.この実験においては潤滑油の油温,供給圧を制御し,軸受け油圧,軸変位,各部振動および放射騒音について調査した.その結果,潤滑油膜の形成は,騒音レベルとしては2dB(特定の周波数帯域においては最大6dB)程度の寄与をもっていることを明らかにできた.
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