研究概要 |
SやSe等のカルコゲンを用いて化合物半導体の表面を処理すると,界面における原子/電子構造が著しく改善されることが知られており注目されている.同処理による結果を一般化し,広く活用するためには,安定化の機構を明らかにすることが必要で,多くの研究が試みられてきた.第一原理による理論計算で,GaAs表面においてGa-S/Se結合が形成されると,バンドギャップ内準位が著しく低減することが示され,光電子分光等による結果と良く対応することもあって,安定化機構の本質であると期待されてきた.しかし,これら解析の基礎となるS/Se-Ga-2x1構造等の配列構造は,電子線回折では測定されるものSTM観察には成功しておらず,原子レべルでの配列構造を疑問視する意見も出され始めていた.実際,理論計算の結果は,基礎となるモデルに強く依存するため,安定化機構の解明に於て,処理表面の原子構造を明らかにすることが急務である. 我々は,本研究において,探針の先端をFIM(電界イオン顕微鏡)により制御したFI-STMを用いて,Se処理を施したGaAs表面で,Seのダイマーによる,2x1,2x3等の構造の観察に成功した. 2x3構造は、Ga原子のブリッジサイトとオントップサイトに交互にSe原子が吸着してダイマー構造を取ることによって形成される.通常は,オントップサイトへの吸着はエネルギーが高く,ブリッジサイトのみが考察の対象になるが,Seではダングリングボンドあたり2.5個の電子が余るため,GaAs-2x4構造等と同様,表面再構成によってエネルギーの緩和が引き起こされたものと考えられる. また,2x1構造の部分の凹凸は〜0.01nm程度と小さく,これまでSTM観察が困難であった理由と思われる. 以上の結果により,カルコゲン原子による表面処理が,原子レベルで表面を制御する有望な処理であることが示されたと共に,今後,理論計算と併せて,上記機構を一般化し,化合物半導体表面/界面の構造制御に関する試みが大きく発展することが期待される.
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