高融点金属の精練に用いられる固体電解法をビスマス系酸化物高温超伝導体に応用し、結晶配向性を向上させるとともに、結晶粒間弱結合性を改善させ、高電流密度化への道を拓くことを目的に研究を実施した。 昨年度の実験結果を踏まえて、試料の作製と評価に関する一連の実験を行った。金属被覆加工法を用いて、銀同属円筒電極間に超伝導酸化物を封入して銀・セラミックス複合体を作製し、通電電流をパラメタとして直流通電下で試料を焼結し、試料の超伝導特性(主として臨界電流I_c)に及ぼす直流通電の影響を研究した。 焼結温度820℃〜840℃で百数十本にのぼる試料を作製し、結晶配向度、微細構造及び臨界電流I_cを測定した。実験結果からは、直流通電試料と無通電試料との間で微細構造及び結晶配向性への顕著な違いは認められなかった。しかし、臨界電流I_cに対する度数ヒストグラムからは、無通電試料の場合にはI_cの増加とともに度数は急激に減少するが、通電試料の場合には、通電電流が5〜10Aの範囲ではI_c=(15〜20)Aにピークをもつ正規分布に近い分布が得られた(1993年秋季第54回応用物理学会講演予稿集pp.166)。この事実は、固体電解法によって15A級のI_cが安定的に達成されることを示しており、高温超伝導線材の実用化に向けて大きな意義がある。高いI_c値が安定的に得られる理由としては、結晶配向度の変化よりも結晶粒界の変化による粒間弱結合性の改善が考えられる。
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