固体電解法は交融点金属の精練に用いられる手法のひとつである。すなわち、試料を融点直下の温度に保持して半溶融の状態にし、直流通電により不純物をイオン化して正負電極に移動させ試料の高純度化を図る。本研究では、Bi(2223)高温超伝導体が部分溶融状態下で成長することに着目し、固体電解法を用いて銀シースBi(2223)高温超伝導線材を作製し、焼結中の直流通電が微細構造と臨界電流に及ぼす影響を研究した。 具体的には、出発原料(共沈粉)を仮焼・粉砕した後、銀パイプ(外径8mm、内径6mm)と銀の丸棒(直径4mm)を同軸状に組み合わせた隙間に封入する。この銀/セラミックス複合体をスエージング加工した後、一次焼結及び二次焼結する。二次焼結の際、最後の10〜30hに、5、10Aの直流電流を通電して試料とする。 固体電解法を用いて、焼結温度820℃〜840℃で百数十本にのぼる試料を作製し、結晶配向度、微細構造及び臨界電流I_cを測定した。その結果、通電により微細構造や結晶配向性への顕著な変化は認められなかったものの、臨界電流ヒストグラムからは、無通電試料の場合にはI_cの増加とともに度数は急激に減少するが、通電した場合にはI_c〜15Aにピークをもつ正規分布に近い度数分布が得られた(1993年秋季第54回応用物理学会講演予稿集pp.166)。この事実は、固体電解法によって15A級のI_cが安定的に達成されることを示しており、高温超伝導線材の実用化に向けて大きな意義がある。この理由としては、結晶配向度の変化よりも結晶粒界の変化による粒間弱結合性の改善が考えられる。
|