トンネルエミッタは電子管を集積化する際の微小冷陰極電子源として期待されている。この研究ではn型Si基板上にホロー陰極プラズマ酸化法により形成した薄い Si酸化膜を用いたMIS型トンネルエミッタの作製とその電気的特性について検討した。その結果を示すと次の様になる。 1.トンネルバリアとして用いる厚さ5〜20nmのSi酸化物絶縁膜は、ホロー陰極により放電を強めた酸素プラズマをn-Si(100)基板表面に直接さらすことにより室温で形成した。このホロー陰極効果により、放電電圧が300V〜500Vの比較的低い電圧でも安定な酸化が可能になった。また、エリプソメータの測定結果から、酸化膜の厚さは酸化時間により制御できることが確かめられた。一方、酸化膜のストイキオメトリをESCAにより調べたところ表面付近ではSiO_2であったが、膜中はSiの低級酸化物層が形成されていることがわかった。 2.このプラズスマ酸化膜を用いて、1mm×1mmの接合面積をもつMIS型トンネルエミッタ素子を作製した。上部電極は厚さ10nmのAuである。この素子の電流-電圧特性を測定し、Fowler-Nordheimプロットを描いたところ高電流領域ではほぼ直線であることから、この領域での素子電流はバリア絶縁膜を通してのトンネル電流が支配的であることが確認できた。 3.試作したトンネルエミッタの真空への電子放射は、ターボ分子ポンプを用いた10^<-8>Torr台の高真空排気装置中で行った。その結果、素子によるばらつきがあり、小さいもので5pA、最大で800pAのエミッション電流を観測することができた。このばらつきの原因の一つとして、酸化膜の厚さの不均一や組成の不均質が考えられる。また、電子放射効率(放射電子電流と素子電流との比)が10^<-8>とかなり低いもの、膜厚の薄いところへの電流の集中に起因しているものと考えられる。これらの膜厚や膜質の正確な制御が今後り課題である。
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