我々は、Nb/YBCO点接触接合を用い、高温超伝導体ジョセフソン接合では、世界最高周波数である1.3THzで交流ジョセフソン効果(シャピロ・ステップ)を観測してきたが、本来高温超伝導体ジョセフソン接合に期待される10THz程度での応答に比べ、まだ低周波であった。これは、接合のlcRn積が1mV程度と素子性能が低いためである。そのため、高品質接合の製作が課題であったが、接合製作の再現性もより重大な問題であった。すなわち、これまでの最高応答はCVDで成膜された高品質高温超伝導体薄膜で実現したが、製作条件の変動に伴い、ジョセフソン電流も示さなくなった。これは、表面が劣化超伝導層で覆われたからである。高温超伝導体は大気中で劣化しやすいので、この点を克服するため、Brによる表面の化学エッチングを本研究では試みた。スパッタ法により成膜されたあまり高品質ではない薄膜を用いたところ、1回だけ従来よりよい応答を示す接合が形成されたが、再現性はなかった。このため、CVD膜に匹敵するよい薄膜の製作をめざし、レーザアブレーション法によるYBCO薄膜の製作を行った。結果としては、Tcが〜90Kの通常よいとされる膜は得られたが、ジョセフソン接合形成はできなかった。これは、化学エッチングを行うとしても、まだ厚い表面劣化層があり、この厚すぎる劣化層の除去が、膜にダメージを与える結果と結論した。今後は、表面のよい劣化層の薄い薄膜の成膜条件の解明と化学エッチングを組み合わせ、高品質ジョセフソン接合の製作を行い、より高周波での応答の測定をおこなう。
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