本研究では、広い分野で注目される自己組織化の概念を、非線形現象の研究では蓄積のある電気回路網を具体的対象として解明することを目的とした。特に、従来、自己組織化の具体例とされてきた周期現象、同期現象などの秩序化の対極にあるカオス現象に注目し、その発生条件、物理的本質を解明することにより、非線形電気回路網に生じる諸現象を統一的に理解することを目指した。本研究の主な成果は以下の通りである。 (1)非線形能動素子1個、線形で正のインダクタ及びキャパシタ合わせて3個、線形抵抗1個、以上計5個の素子で構成できる11個の3次元発振器群を考えた。パラメタ値の変化に伴う平衡点の安定性の変化とカオス発生との関係を明らかにし、これらの発振器群をカオスの発生に関して分類することに成功した。これにより、3次元発振器におけるカオス発生の必要条件を得ることができ、従来、試行錯誤的にしか求められなかったカオスを系統的に探索することができることになる。今後、同様の考え方を、他の非線形特性素子を用いた系、あるいは4次元以上の系に対して拡張し、一般的なカオス発生条件を明らかにすることが課題である。 (2)以上の結果から、カオスとは、非線形性の強さに伴い、非発振から発振状態(交流)、さらに発振停止(直流へと変化する経過で、発振状態の一つの特殊な状況として生じ得るものであることが明かとなった。今後、筆者が先に提唱した「平均ポテンシャル」を拡張し、これら一連の現象を物理的、統一的に理解する必要がある。 (3)非線形素子が2個の系として、同一特性の2個の弛張振動発振器の結合系を考察し、2つ存在する同期状態の一方が、非線形性が強くなるとき不安定化する現象を見いだした。多数の非線形素子を含む系の振舞いを理解する基本として、この現象を物理的に解明することが今後の課題の一つである。
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