昨年度の研究ではもっぱら制御量を最小にする問題を扱った。これは確かに制御効率からは望ましいが、実際の構造物の振動問題では運動が出来るだけ速く静止する必要がある場合も多い。特に重要構造物では制御に大きなエネルギを要したとしても速やかに効果が現れる制御の方が望ましい。本年度はこのことに注目して、昨年の制御量最小化問題を、制御量プラス注目する領域内での波動エネルギを最小化する問題に置き換えた。 まず波動方程式に支配される問題を考え、制御問題を変分法により定式化した。すなわち、既知の初期条件を満たす波動方程式の解uで、ある時刻T>0において完全に静止するもののうち、境界Dirichlet制御の自乗積分とuの時空における自乗積分の重み付き和が最小になるようなものを生じさせる境界Dirichlet制御を求める問題を考える。この問題は拘束条件付き最小化であるので、制御される量、及びLagrange乗数に関する連成偏微分方程式系が得られるが、この系は、応用数学で最適システムとして知られている方程式系に似ている。この方程式系を昨年に引き続き境界積分方程式法によって解くことを試みた。まず、系の基本解を求め、これをグリーン公式に代入して解のポテンシャル表示を得、境界条件を積分方程式で書き下しこれを離散化して数値的に解く。ただし、Lagrange乗数の初期値は未知であり、制御は厳密制御でなければならない。これらの事からLagrange乗数の初期値に関する第1種積分方程式が得られる。これを解けばDirichlet制御はLagrange乗数の境界での法線微分の定数倍として求まる。 以上の定式化を1次元問題に適用して数値計算を行った。第1種方程式であることからも予想されるように、得られる代数方程式は非常に悪条件のもので、Tikhonovの正則化を行うことが必要であることがわかった。簡単な問題において数値解を得ることが出来たが、一般の場合、特に多次元の場合への拡張は容易ではないことが結論された。
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