研究概要 |
本年度の主な研究実績を各研究項目毎にまとめると次のようになる. [1]欠陥による波動の散乱エネルギー量の算定 1)散乱エネルギー量は部材のポアソン比に大きく依存する.これは縦波を入射波動として利用した場合でも,エネルギー的には横波の散乱波成分が分担するエネルギーの割合が無視できないことを意味している. 2)損傷が進行し,損傷部の剛性が低下したとき,散乱エネルギーは周波数軸上で剛性低下量を反映した振動現象を生じる. 3)損傷がさらに進行し,損傷部がキャビティー状になった極限において,この振動現象は止まる. [2]弾性散乱波に対する観測可能な量と損傷度の関係の確認 弾性波に対して,3つの物理量:(1)散乱エネルギー,(2)散乱減衰率,(3)損傷度の間には1つの関係式が成立していることを確認した.これより,損傷度を評価するためには,残りの2つの物理量,即ち,散乱エネルギー量と散乱減衰率を評価すればよいことになる. [3]損傷度評価のための超音波散乱減衰診断法の提案 散乱減衰率を計測し,波動の散乱エネルギー量を数値解析的に算定し,材料の損傷度を評価する散乱減衰診断法を提案した.この方法が有効に機能するためには,波動の散乱エネルギーが精度良くかつ簡単に算出できる必要がある.このために,近似的ではあるが,任意形状の散乱体前方の一点だけの情報により全散乱エネルギー量を計算する方法を,境界要素法と散乱波の積分表現を組み合わせて導出・整理し,その精度と有用性を数値実験的に確認した. なお,本研究内容は数値実験に基づいた推定手法の提案段階であり,計測を取り入れた拡張段階は今後の課題である.
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