黒部川扇状地デルタの形成と縮小について長期的、短期的なタイムスケールを考慮した観点から研究を行った。 扇状地海岸の骨格は、地質時代の海水準の変動と密接に関係して形成されたことが明確である。現在の扇状地は旧扇状地形成後、海水準の低下によって黒部川の掃流力が増加し、旧扇状地面が侵食されたあと、再び海水面が上昇による河川の掃流力の低下によってし、土砂が堆積して形成されたものである。現在台地として残されたところは旧扇状地面で、その堆積勾配は地質調査から旧扇状地面の勾配と一致している。 一方、この扇状地を形成した黒部川は、かつて扇状地の東端に近いところに主流路があり、そこから海岸に排出された多量の土砂が扇状地海岸の沿岸漂砂のバランスを保ってきたが、約350年前に主流路が現在の扇状地西端付近に移動に伴って、扇状地東海岸の侵食が始まり、現在まで続いているものである。ま、現黒部川河口部付近の汀線の変化については、約150年前に描かれた絵図をもととしてその後の測量図、空中写真から比較すると河口部東側において約200m前進がみられるが、河口前面では河口砂州の消長によって浸食されているが、約150年前と大きな変化はみられない。さらに、口西海岸では黒部川からの流送土砂量が減少したによって沿岸部で汀線が大きく後退するとともに、護岸の築造されているところでは前面海域の水深の増大が顕著となってきている。 以上のように、地質時代から扇状地として形成されてきた黒部川扇状地海岸は、黒部川流路の移動に伴って漂砂源が消滅した河口東海岸はより早期に、また西海岸においても流送土砂の変化によって侵食海岸へと変化するとともに、沿岸部に築造された海岸・港湾構造物による漂砂の連続性の阻止などの原因によって縮小の運命にあるものといえよう。
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